11月21日
日本航空435便、12時35分発。
あー関空に早く着きすぎた。
2時間以上も前に着いてしまった。
チェックインできるのだろうか。
重いスーツケース引きずりながら、ゴロゴロ移動するには耐えられない。
JALの立派なカウンターに行ってみた。
カウンターのお姉ちゃんは「お独りですか?」としつこく何度も尋ねる。
「独りじゃ悪いんか」っとちょっと切れそうになったが、ぐっとこらえた。
今回は出発直前までスーツケースにするか、ボストンバッグにするか迷った。
空のスーツケースは8キロもある。
ボストンバッグは1キロもない。
7キロ分も余計に機内預けにする事ができる事を考えると、やっぱりボストンバッグかな。
とりあえず荷物をボストンバッグに入れてみた。
13キロ。
自分で持てるか持ってみた。
倒れそうになった。
日頃重たい物っていったら箸ぐらいしか持ったことのない私にとっては、とてもじゃないけど持てる重さじゃない。
仕方ない、ボストンバッグは諦め、スーツケースに変更した。
そういう事で今回もスーツケースにしたんだけど、そのスーツケースの重さは今回19.3キロ。
何でこんなにも重いんだ。
着替えはセーター2枚だけだし。
他のこまごました物は極力控えた。
わかった、食べ物だ。
独りで寂しくホテルで過ごす事を考え大量におやつを買い込んだ。
それも2キロ分。
だから今回はこんなにも重いんだな。
これで帰国した日には絶対体重2キロ増えてる、決定だ。

無事税関通過。
免税店では何も買う物はない。
搭乗ゲートにやってきた。
が、誰もいない。
やった、一番乗りだ。
通路で寝ようが、パシャパシャ写真撮ろうが、誰の迷惑になる事もない。
まだ飛行機さえ来ていない。
でもこのゲートであってるんだろうか。
心配になってきた。
ちょっと待てよ、スーツケース預けた時にもらう半券もらったっけ?
いつもは「ここに貼っときますね」ってパスポートか、帰りのチケットに貼ってくれるのに、今回は貼ってくれなかったぞ。
かばんの隅から隅まで探したけど、どこにもその半券はない。
フランスに着いて、スーツケース出てこなかったら、その半券を見せてクレーム言わないといけないのに。
どこ行ったんだ、私の半券。
あせってきた。
これから12時間もスーツケース大丈夫かなって心配しながら機内で過ごすのは体に悪いぞ。
隣に座っているお姉ちゃんに聞いてみようかな。
あーなんてタイミングが悪いんだ。
お姉ちゃんサンドイッチを食べはじめた。
直ぐに機内食出るんだから、今サンドイッチなんか食べなくていいだろう。
どうしよう、半券がないぞ。
こんなに寒いのに汗まで出てきた。
カーゴも到着して荷物を積みこみ始めてる。
あの中に私のスーツケースがある事を祈るしかない。
どうにかなるか、きっとなるよ、どうにか。
日本語バリバリでクレーム連発したらなんとかなるさ、きっと。
大丈夫だって、 天下のJALだよ。
わかんなかったら、JALのカウンターに行けばいいんだから。
って自分にいい聞かせた、変な汗かきながら。

搭乗時間が30分遅れるというアナウンスがはいる。
何だよまったく。
到着時間に遅れるとホテルまでの送迎バスがキャンセルになるかもしれないんだぞ。
キャンセルになったら払い済みのお金も返ってこないし、自力でホテルまで行かなきゃなんないんだよ。
それも重いスーツケースゴロゴロ押しながら。
たまったもんじゃない、早くしてくれよ。
30分遅れでやっと搭乗が始まった。

今回事前に席のリクエストをしたんだ。
通路側でそれもトイレに近い所。
この時期乗客は少ないようで、私の隣の席は空席だった。
やったー、ラッキー。
これで機内でゆっくり過ごせる。
またまた、ラッキー。
自分専用のテレビがある。
これで前の人の頭邪魔だ、どけろよって思いながら観なくてすむんだ。
私専用だ。
12時間も乗るんだから、自分専用がなかったらエコノミー症候群にやられちまうよ。
プログラムを見てみた。
何だよ、全部フランス語じゃないか。
JALなのになぜフランス語かというと、私が乗る飛行機はエールフランスとの共同運航で、機材、乗務員はすべてエールフランスなんだ。
だから、機内の物は全てフランス語。
ここからもう既にフランスなんだ。
英語は喋れないが、何を言っているかという事ぐらいはわかる。
でもフランス語はまったくわからない。
聞く事も書く事も喋る事もできない。
学生の時1年だけフランス語を選択したが、喋れるのは自分の名前と、地下鉄の回数券くださいだけ。
テレビのボタンを適当に押すと映画が始まった。
それも何語かわからない映画が。
字幕は出るけど英語だから、何の映画だかまったくわからない。
諦めた。

冷たい飲み物のサービスが始まった。
私は勿論「白ワイン」
通路向うのお姉ちゃんは「シャンパン」って言ってる。
えっ、シャンパンあったのか。
私もシャンパンにすりゃよかった。
あんまりシャンパンなんか機内で飲めないよ。
お姉ちゃんどうぞって言ってくれないかなって、横目で見ながらホワイトワインを飲んだ。
ボトルで貰ったけどすぐになくなった。
おーい、スチュワーデスのお姉ちゃんもっとワイン持って来い。
私は完全に酔っぱらいだ。
機内食が始まった。
空席2つ向うのお兄ちゃんはもう食べ始めている。
「ねっねっ、美味しい?」って酔っぱらいオヤジ状態だ。
絶対和食にするぞって決めていたのに、酔っぱらっている為、口から勝手に「フレンチ」と出てしまった。
メニューはスモークビーフとポテトサラダ。

ポテトサラダっていえば聞こえはいいが、ただの粉ふき芋だ。
でも妙に美味しい。
JALの機内食はいまいちという噂だが、エールフランスのはまずまず美味しい。
プチフランスパンも出てきて、カマンベールチーズとバターの2段重ね塗りをすれば、コクがあってますます食が進む。
頼んだ赤ワインと機内食をたらふく頂き、上機嫌で機内を快適に過ごす。
しかし酔っぱらっている為、独り言が異常に多い。
8日間誰とも会話する機会がないと思えば、独り言でも言って発散するしかない。
酔っぱらいオヤジ通り越して変なオヤジに変身だ。
よっぱらいオヤジは2時間ほど爆睡した。
途中でトイレが故障したとアナウンスが入る。
マジかよ。
何ていう飛行機だ。
トイレが故障したら大変じゃないか。
1時間ぐらいなら我慢できるけど、あと6時間は我慢できないぞ。
パーサーが私に話し掛けてきた。
「Do you speak English?」
英語は話せますかって?そんなの「No」に決まってんでしょ。
Noって言ってるのにパーサーは英語で話し続ける。
パッセンジャーがどうのこうの言ってる。
きっと私の隣の席は空席かって聞いたんだろう。
私は「Yes」
英語は話せないって言ってるのに、また英語で話し続ける。
通路向うのフランス人のひげオヤジのテレビが故障してるので、あなたの隣の席が空席ならそこにひげオヤジが座ってもいいかい?
ひげオヤジ、子供じゃないんだからそれぐらい我慢しろよ。
せっかくゆったり座っていたのにさ。
ここで一発、Noと言える日本人だ。
私はニコニコ笑顔で「Yes」と答えてあげた。
あーどうしてNoと言えなかったんだろう。
ひげオヤジ嬉しそうに「アリガト」を連発していた。
ひげオヤジ強引に移動してくるもんだから、テレビのコントローラー落としちゃったじゃないか。
あーどうしてくれるんだ、今度は私のテレビが壊れちゃったじゃないか。
ひげオヤジ、胸ポケットからパン出してきてコッソリ食べてんじゃねえよ。
あんたがこっちに来たいって言うもんだから、親切心でOKって言ってあげたのに。
トイレは壊れ、テレビは壊れ、快適指数120%だったのが、一挙に-120%ぐらいになったじゃないか。
だからパンをコッソリ食べるなってば。
ヘッドホンからジージーとノイズが入ったままテレビを観る羽目になった。
ひげオヤジまたスチュワーデスにパンを貰ってる。
また胸ポケットに入れたぞ。
胸ポケットに入ったパンをちぎりながら、見つからないようにコッソリ食ってる。
誰も見てないって。
パンぐらい堂々と食べろよ。
テレビでは映画も盛りだくさん、ゲームも音楽も盛りだくさん。
12時間のフライトを退屈しないようになってはいるが、そんなのゲーマーじゃあるまいし、飽きるに決まってるよ。
映画も日本語の字幕がなければわからないし、ゲームもルールの説明は英語だし。
結局は持ってきた本を読むしかないんだ。

2回目の機内食がやっとやってきた。
これであと2時間ほどで到着する。
機内食も全部綺麗に平らげ、ご満悦で残りの時間爆睡する。
やっとフランスに到着。
12時間はさすがに長かった。
フランスへの入国は簡単なもので、入国カードに名前、住所、職業を書くのみ。
パスポートに入国スタンプさえも押さない。
こんなんじゃ、麻薬の密輸犯だって簡単に入国できる。
記念に入国スタンプ押してもらいたかったな。

さぁ、私の心配事のスーツケースは無事に到着するのだろうか。
急いで手荷物受け取り所まで行った。
まだか、私のスツーケース。
おい、ほとんど人がいなくなっちゃったじゃない。
私のスーツケースはまだ出てこない。
どうなってんだ。
向うの方でキラリと光るスーツケースを発見。
おー愛しのスーツケースよ、こんな所にいたのか。
さぁ、急ごう。
送迎をお願いしている会社のカウンターに直行した。
「ボンジュール」かっこいい、フランス語だ。
「イモトサン」「Yes」「Do you speak English?」「No」
英語がしゃべれないのがわかったのか、カウンターのおじちゃんは片言の日本語で話し始めた。
「20プンカラ30プン、チョトマテクダサイ」「OK」
20分ほどして迎えのバンと鼻の高い運転手がやってきた。
ここでも「Do you speak English?」と聞かれた。
「No」と言うと、オヤジは突然「I love you」と私に言った。
オヤジ、私に人目ボレかい。
ボクの住所をあなたに教えるねとも言った。
おーこれがナンパというものか。
それともフレンチジョークのつもりか?
私はびっくりして「えっ何?アドレスってあんたのアドレス聞いとけばいいの?それは送迎してもらう際に必要な事なの?」ちょっとパニクる。
オヤジはそんな私を見て喜んでいる。
喜ぶなオヤジ。
さあ、バンに乗ってホテルまで直行だ、と思いきや、途中で3人のお客さんをピックアップして合計4人の送迎珍道中が始まった。
途中バスティーユ広場のライトアップを見ながら車中は大盛り上がり、私を除く3人がね。
私は独り言のように寂しく「わぁー綺麗」と独り盛り上がっていた。

市内に入り渋滞に巻き込まれたりしたが無事ホテルに到着。
ホテルを見て第一声「ゲッ」
ここは営業してるのか?潰れかけのホテルのようだ。
ドアを開けてビックリ。
通路の奥にカウンター兼テーブルがあるのみ。
そこにはテカテカしたオヤジが座っていた。
日本語で書いた日本大使館発行のパンフレットを受け取った。
そこには犯罪の手口がびっしり書いてあった。
着いていきなりそんなもの渡されたもんだから、かなりビビッた。
朝食は7時から10時まで、なんとかかんとか・…テカテカオヤジは説明してくれた。
部屋のカギを受け取り自分で荷物を運ぶ。
ボーイが運んでくれるんじゃないよ。
だってスタッフはテカテカオヤジ独りなんだから。
通路には電気がないので真っ暗。
手探り状態で自分の部屋を探す。
お化け屋敷に入ってきたようだ。
暗くて鍵穴さえわからない。
これまた手探りで必死に鍵穴を探す。
あーやっと部屋でくつろげる、と思ったが部屋を見てまた「ゲッ」
ツインルームなのだが、6畳程の部屋にベッド2個とテーブルのみ。
トイレとバスはベッドの横でドアという仕切りがない。
ふすまのような引き戸があるのみ。
それもそこには電気がない。
真っ暗なので引き戸を開けながらシャワーとトイレをしなくちゃいけない。
何て開放的な部屋なんだ。
部屋は大通りに面しているため、車と人の話し声がうるさい。
小ぢんまりしすぎてスーツケース開ける場所もない。
仕方ない、ベッドの上で開けるか。
2つ星なので期待はしていなかったが、ここまでとは思ってもいなかった。
テカテカオヤジに「6泊もするの?」って聞かれた時には「えっ、6泊もしたらおかしい程のホテルなの?」って思ったが、その意味が今やっとわかったよ。
郊外に行くのに便利な場所にある為、泊まる人はパリに着いた日だけの寝る場所として利用している人が多いみたいだ。
だから長くても2,3日とか。
私はこの2つ星のホテルに6泊もする変わり者なんだ。
どうなることやら。