2001.5.29

午前5時15分、無事タイ国際空港に到着した。
ハブ空港と言われるだけあって、朝早くてもお店が開いているのは嬉しい。
だって次の便まで5時間もあるんだから、これでお店が閉まってたら通路で大の字になって寝るしかないじゃない。
5時間も時間潰すことが出来るのかなと不安になりながらも、事前調査済みのビジネスセンターを発見。
第一の目的、海外で自分のホームページを見る事。
申込書に記入して、係りのお姉さんが端末機にカードを通すと、出た出た日本語ヤフーが。
驚いた、まさか日本語ヤフーがトップページになっているとは思っていなかった。
それだけ日本人も利用しているって言うことなのかな。
とりあえず、うちのホームページを見てみよう。
出たよ、うちのホームページが、それもちゃんと日本語の。
もうめちゃくちゃ感激。
どこからでも見れるんだ、北極からでも南極からでも見れるんだ・・・きっと。
興奮しながらBBSにも書き込みをしちゃった。
とりあえずやる事はやったと満足感いっぱいで、料金の事なんかすっかり忘れてた。
恐る恐る料金を尋ねたら、15分2ドルだった。
これってめちゃくちゃ高いけど、でもホームページも見れたし書き込みも出来たし、まあいいかって、ひとりニコニコしながら係りのお姉さんに「ベリーベリーサンキュー」を連発していた。
さあ、使命も果たしこれからどうするかと、いきなり現実に。
急にブルーになってきた。
別にタイで買う物はないし、暇だからとりあえずウインドーショッピングでもするか。
甘かった、タイ国際空港は異常に広かった。
歩いても歩いても店店店。
機内食の朝食もフルーツとヨーグルトだけだったので、ちょっと小腹がすいてきた。
そうだ、せっかくタイに来たんだからトムヤムクンを食べよう。
めざすはレストラン。
探せ探せ、レストラン、でも見つからないぞ。
こんなに免税店はいっぱいあるのに、レストランがない。
歩け歩け、やった、やっとレストラン発見。
どれどれ、トムヤムクンは・・・ないじゃない。
ハンバーガーとベーグルサンドがクルクル周ってるだけじゃない。
本当にここはレストランかい、きっと違う場所にあるはずだと、また歩け歩け。
でもどこにも見当たらない、えーっレストランはあそこだけかい。
ハブ空港なのにレストランぐらい10件や20件あってもよさそうなのに。
仕方ない、さっきのレストランで我慢するか。
とりあえず、中国人らしき人が頼んでいたスープヌードルという物を注文した。
お米の麺に鳥のささみ、鳥のつくね、鳥のチャーシュウ、鳥のスープ。
鳥づくし。
あっさりスープ色してるのに、飲んでみるとめちゃくちゃ脂っぽい。
リップクリームはいらないよって言うぐらい唇がギトギトする。
これは空腹の胃にはこたえる、とりあえず麺だけでも食べてしまおう、4ドルもしたんだから。
喉が乾く、お水頼んだらお金取られるんだろうな、ケチケチ根性勃発。
関西国際空港で買った『午後の紅茶』を、ウエイトレスに見つからないようにこっそり飲む。
あー美味しい、『午後の紅茶』ってこんなにも美味しかったっけ。
さあこれからどうする、出発まで3時間はあるぞ。
私の大好きな人間ウオッチングでもするか。
向かい合わせのベンチに腰をかけ、足を投げ出し人間ウオッチング開始。
白人、黒人、東洋人いろんな人種の人がいる。
この空港は世界の中継地点でもあるのかな。
親族全員でワイワイしている人、めちゃくちゃ疲れきったサラリーマン風の人、おばさんの団体、みんなどこに行くんだろう。
人間ウオッチングしていたら睡魔が襲ってきた。
ここで寝たら大金入りバッグが盗まれる、目を思いっきり見開き、睡魔との戦いが始まった。
悪魔君と天使さんの戦いのようだ。
もう我慢の限界という時にやっと念願の出発時刻になった。
あーよかった、もうちょっとで睡魔にやられる所だった。
さあ、ベトナムに向けて出発だ。
TG680便午前11時発。
1時間のフライトで機内食出るかなって、食べる事ばかりを心配している私。
もっと違う事を心配したらいいのに、出入国カードの書き方とか。
これをきちんと書いていないと、ベトナムから出国する時、税関職員に多額の賄賂を要求されると聞いていたのに。
本当だろうかと半信半疑だったけど、出国する際にこれが現実となる事を、私はこの時想像もしていなかった。
待ちに待った機内食。
ワインも注文して、美味しいタイカレー。
最高だね、もうこのまま日本まで運んで行ってくれないかなと思いながら、幸せな気分は1時間で終わった。
入国手続きをし、税関でスタンプを押してもらい、このスタンプをわざと押さずに出国の時に賄賂を要求したりするらしいので、紙に穴があくんじゃないかと思うぐらいしっかり見届け、厳重にパスポートをカバンの中になおした。
空港には迎えの人が来てるはず、安心安心と外に出ようと思ったが、足が前に出ない。
怖い、怖すぎる、この群衆の中を歩けというのか。
獲物を狙うハイエナのように群衆は私に視線と言葉を浴びせる。
何ていう国に送りこまれたんだろう、シャッチョウ恨むぞ、もう日本には帰れないだろうなと、この時真剣に思った。
海外旅行は経験済みだが、空港に着いてこんなに怖い光景を見たのは初めてだった。
これがカルチャーショックと言うものなんだろうな。
また行って来いってシャッチョウに言われたら、絶対「嫌だ」って言うおうと心に誓った。
スーツケースを押しながら迎えの人をやっと探し、早く早く車に乗せて、でないと私ここで身ぐるみはがされる。
早くして、お願い。
私の懇願もむなしく迎えの人はこう言った「もう一組お客さんがいますから、ここで待っていて下さい」
マジかよ、もう殺される、そんなお客さんなんか放っておいて車に乗せてよ、と自分勝手100パーセント丸出しで、言いたかったがぐっとこらえた。
早く来い来いもう一組のお客さん。
それらしき人が空港から出てきた。
が、出口の所にある両替所で両替しようとしている、こんなハイエナの群集の中であんたらよく両替しようと言う気になるな。
怖くないのかい、私大金持ってますってプラカード持って歩くのと一緒だよ。
迎えの人がここで両替はしないでと言いに行った。そりゃそうでしょ。
あーやっと車に乗れる。
群衆の中をかき分けかき分け、スーツケースを押しながら、バッグを握り締め、無事車に乗る事が出来た。
ホッとしたのもつかの間、今度はバイクと自転車の嵐。
想像はしていたものの、こんなに多いとは思ってもいなかった。
車の前を平気でバイクが横切る、その間を自転車が走る、またまたその間を人が横切る。
なんていう交通事情だ。
事故はしないのかなって迎えの人に聞くと、「事故は多いですよ」って、そりゃそうだろうな、これで事故が少なかったら、ベトナム人はみんなF1レーサーになれるよ。
そんな光景を眺めながら、20分ほどでやっとホテルに到着した。
あー安全地帯だ。
そう思っていたのもこの時だけかも。
チェックインをすませ、ボーイが部屋までスーツケースを運んでくれると言う。
ちょっと待てボーイさん、私はドルと円しか持ってないんだよ。
チップに1ドルは多すぎるだろう。
ボーイさんに「ノーマネーだから荷物は自分で持っていく」と言ったら、ボーイさんはニコニコ顔で「ノープロブレム」と言ってくれた。
なんていい人なんだ。
世の中にはこんな人もいてるんだ。
でも本当に部屋まで運んでくれるのかな、そのままどこかの市場に並んでたりしないのかな、ってちょっと不安になったけど、それじゃあ君頼んだよって目で合図をして、部屋に直行した。
あーここが一番安全地帯だ。
やっと安らげる。
しばらくするとトントンとノックの音。
覗き穴から見たいのに、私の背では届かない高い所に覗き穴がある。
こんな高い覗き穴は始めてだ。
確認できないじゃない、確認しないまま開けて、いきなりピストル付きつけられたらどうするんだ。
1000万の旅行傷害保険は入っているけど、私の価値は1000万じゃないぞって短時間の間に色々考えた。
トントンなってるよ、恐る恐るチェーンロックをしたまま開けてみた。
すると先程の好印象バツグンのボーイさんが私のスーツケースを持ってきてくれた。
よかった、私の愛しのスーツケース、中身はボストンバッグとビニール袋だけだけど、ボーイさんに「ベリーベリーサンキュー」と言ってスーツケースを受け取った。
ごめんねボーイさん、「ノーマネー」なのよ。
さあスーツケースも来た事だし、行動開始。
とりあえずはベンタイン市場に出掛けるか。
そこで下調べをして物の価格調査をしないとね。
ホテルから1歩外に出る、そこから戦争は始まった。
シクロマンが「こんにちは、どこへ行く」とベトナム語バリバリの日本語で話しかける。
その横からバイタクのにいちゃんが「オッハー」って叫んでる。
誰に教えてもらったんだそのオッハーは、でももう古いよ、違う挨拶を伝授しなくちゃ。
またまた横から子供が絵葉書を売りに来た。
もう、あんたらうるさい。
無視しつづけるとどこまでもしつこくついてくるので、「ノー」といえる日本人になってやろう。
「ノー」私ははっきり言った、するとシクロマンは「どうして」ときりかえしてきた。
敵は手ごわいぞ、どうしてって聞かれても「ノーやからノーやねん」って、私も分けわかんない答えを投げかけて一目散に逃げた。
シクロマン、バイタクは道路の角で待機をしている。
あーまたか、このやりとりは出国するまで続くんだろうな。
そうだ忘れていた、市場に行く前に両替をしないと。
両替率がいい両替屋に行った。
その両替屋の前に物乞いのおばさん、物売りの子供、うじゃうじゃいるじゃない。
ここで両替するのには凄く勇気がいる。
大金を両替するのを見られて、後をつけられ大金をひったくられるんじゃないかとヒヤヒヤする。
でもここで両替しないと市場で買い物ができないし、えーぃ、なるようになるさ。
1万円を出して「チェンジ」、すると両替屋のおねえちゃんは122万ドンもくれた。
なんだかいきなり金持ちになった気分。
でもそんな有頂天になっている暇ないさ、早く大金をバッグに入れて、尾行されてないか何度も確認しながら大通りに出た。
なんだこのバイクの量は、半端じゃないぞ。
3人乗りまでしているよ、違反じゃないのかい、日本だったら切符切られて、こっぴどく叱られるぞ、いいねベトナムは。
でもこの大通りを渡るのは至難の技だ。
バイクとバイクの間をすり抜け、前進してくるタクシーをすり抜け、自転車で走ってくるお姉ちゃんの間をすり抜け、ハラハラドキドキ、心臓バクバク、やっと渡れた。
もう死ぬかと思った、もう殺されるかと思った。
そんな怖い思いをしながらやっとベンタイン市場についた。
スリ、ひったくり多発地帯に到着。
大金入りバッグを盗られちゃたまらない、買い付けが目的なのに、その軍資金がなくなりゃ、私はここでシクロマンになって「オッハー」って叫ばなきゃならないじゃない。
そんな事にでもなったら大変だと思って、私はちゃんと用意してきたのさ。
防犯バッグを。
パンストにお金を入れてお腹に巻こうと始めは考えていたけど、この暑さではあせもでお腹がかゆくなる。
それで私は考えたのさ、両替をしない日本円は袋に入れて首からぶら下げる事を。
これで安心。
カバンをひったくられても、お金は無事だからね。
でも用心しよう、何が起こるかわからない。
早速今回の目的の洋服のオーダー生地を探すことにした。
でも生地屋が多すぎてどれがいいか迷ってしまう。
あっいい生地発見、 よし早速値段交渉だ。
敵は手ごわくなかなか値段を下げようとしない。
ここで奥の手、帰る振りをしよう、本当に売りたければお姉さんは引きとめてくれるはずだ。
「もういいや、またね」と帰る振りをして少し歩き出した、するとお姉さんは案の定「マダム」と私を呼び止めた。
「何?」と私、「この値段でどう」とお姉さん。
私は「もっと下げてくれなきゃ買わないよ」、お姉さん「そりゃ、あんた無理っていうものよ」
私「そんなんじゃ話にならない、違う店で買うわ」とまた歩き出すとお姉さんは「マダム」と呼びとめる。
そんな事を3回も繰り返し、やっと私の出した値段で交渉成立となった。
あー疲れる。
布1枚買うのに30分も交渉しなくちゃならないのかい。
私は洋服を16枚もオーダーしなくちゃならないんだよ。
その生地を探すのと交渉成立するまで凄く遠い道のりだ、それでテーラーに生地を持ちこみ、こんなふうに作って欲しいって説明するんだよ。
6日間でこんな事だけに時間を費やしているほど暇じゃないんだよ。
私にはもっと違う使命がいっぱいあるんだから。
とりあえず、テーラーに行ってみよう。
テーラーに行けば気に入った生地が置いてあるかもしれないしね。
そんな事で市場を後にし、テーラーがたくさんあるホテルの近くまで帰る事にした。
途中でかわいい雑貨屋を発見。
この靴かわいいじゃない、これうちの店に合うんじゃない、 とりあえず値段をチェック。
またまた途中で日本人が経営している「ZAKKA」に寄り道。
あっ、この靴かわいい、めちゃくちゃかわいい。
定員さんに聞くとオーダーメイドしてくれるらしい。
即断即決、お願いする事にした。
シルクを3色選んで11足作る事にした。
明日になればもう出来上がるらしい、何という早業だろう。
10パーセントぐらい使命を果たしちょっとルンルン気分。
ルンルン気分のまま喉が乾いたので「バクダン」のココナッツアイスクリームを食べる事にした。
おしぼりが出てきた、知ってるんだこのおしぼり使うと20円取られるんだよ。
そんなワナにはまるものか、私はカバンからウエットテッシュを取り出し、鼻歌気分で手を拭いた。
たかが20円ごときでと思うだろうが、ここからがきっとベトナムの摩訶不思議の始まりだったんだろうな。
後々になってその事が充分わかる事件が多発した。
この時はそんな事も知らずに、私はお腹壊さないだろうかと心配しながら、アイスクリームは全部綺麗さっぱり平らげていた。
さあ寄り道はこれぐらいにしてテーラーに向かうか。
ホテルの近くにはテーラーがたくさんある。
片っ端からテーラーを覗くが、シャッチョウ命令のコットンの生地が見つからない。
そんなの見つかりっこないよね。
私は日本で淡々とシャッチョウに言ったんだよ、ベトナムに行ってコットンで作るバカがどこにいてるって。
シルクの国だよベトナムは、アオザイだよ、コットンのアオザイ見たことあるかいシャッチョウ。
ご希望のコットンなんかあるはずないじゃないか。
市場にはいっぱいコットンあったけど、テーラーにはないよ。
あーシャッチョウの怒る顔が目に浮かぶ。
怒ったら絶対言ってやるんだ「それじゃ、あんさん自分でベトナムに行ってきな」って。
これで私の胃が急に痛くなりだしたんだ。
使命を果たす事無く尻尾を巻いて逃げられない。
もういいや、私の思う通りに作っちゃえ、シャッチョウに怒られようが殴られようが、私のやりたいようにやってやる。
とりあえず、地元で縫製が綺麗と評判の「ヴィエッタン」でシルクのスカートを2枚作る事にした。
お店の商品のスカートを見本に渡し、これと同じデザイン同じサイズで作って欲しいとお願いした。
ここは評判のテーラーなのだが生地が少ないのが悩みの種だ。
ここではスカートだけにし違うテーラーを探す事にした。
3件ほどまわったが気に入る生地がなかなか見つからない。
ふと時計を見るともうすでに7時になっていた。
もう今日はこれぐらいしよう、明日また出直すか。
本当に今日は疲れた、昨日は飛行機の中で全然寝れなかったから、今日は早くご飯を食べてゆっくり寝たい。
そんな事で、今日の夕食はここと決めていたホテルの近くのベトナム料理屋「レモングラス」に直行した。
念願の生春巻きだ、食うぞ食うぞ。
ウエイターのお兄ちゃんに生春巻き、カニチャーハン、魚のスープ、ワインを頼んだ。
出てきた生春巻き、大きい凄く大きい。
一口パクッ。
ゲッ、だめだ香草がきつすぎる、日本で食べる生春巻きと全然違う。
私は嫌いな食べ物もないし、何でも美味しく食べる方だと自負している。
でもこれはダメ。
あー楽しみにしていた生春巻きが、こんなはずじゃなかったのに。
気を取り直して今度はカニチャーハンを一口。
うーうまい。
こんなに美味しいカニチャーハンを食べたのは初めてだ。
うまいうまい、どんどん食が進む。
生春巻きがダメだった分これで口直しさ。
今度は魚のスープを一口。
辛っ。
大きな唐辛子そのまま入ってるじゃない、こりゃ辛いはずだ。
辛い、でも美味しい。
カニチャーハンも食べる。
スープ、カニチャーハン、スープ、カニチャーハン。
でも結構量が多いんだよな。
食いしん坊だけど量が多すぎて食べきれない。
テイクアウトにしようかと考えたが、もって帰っていつ食べるねん。
もったいないが残す事にした。
お百姓さん、料理長ごめんなさい。
さあ、食べたいものも食べた、そろそろ帰って寝るか。
ベッドに入ったがオーダーメイドの事が気になって寝られない。
私ってこう見えても小心者なんだよ。
胃も痛くなってきた、キリキリする、神経性胃炎だな、私はプレッシャーに弱いんだから。
とりあえず薬を飲んでおこう。
結局朝方までずっとオーダーのことを考えていた。
こりゃ、オーダーが無事すむまで胃がキリキリのままだな。
あー体調は最悪だ。


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